JBO(SSB遠洋船舶無線電話)について
JARL山口県支部 広報担当 JE4VSP 右田憲識
以下、当日使用したPowerpointのスライドをレイアウトし直したものです。
(追加と若干の修正があります)
1993年秋頃撮影
KDD小山国際通信センター
1990年代前半、施設見学者へ配布していたパンフレット。
パンフレット3枚目下側の写真は私です。
各方向に向いたマイクロ波回線のアンテナ(パンフレット1枚目の地図参照)。
4月後半、敷地内のハナミズキとクルメツツジが開花して、敷地の一般開放が行われる4月末の2~3日の開催期間中2~3000人くらいの来場者があったように記憶しています(ここ数年、新型コロナが流行りだしてからは実施されていないようです/写真1~6枚目)。
栃木県南部といえども北関東、小山市は山口県と比べて冬場は寒いです。一度積雪があると一週間くらい残っていた記憶があります。北関東の澄み切った冬空が今思うと懐かしいです(写真7~9枚目)。
送信系統(小山送信所)
小山国際通信センターのマイクロタワーから送信所方向
中央左が小山送信所局舎
JBOの送信アンテナがあった敷地は現在小山市民病院や体育館となっている。
小山送信所は、自分が在職していたころは局舎の一部が「国際通信資料館」となっていて、1枚目写真入口玄関から入り(第1局舎)、明治から昭和の頃の国際通信に関する資料が展示されていました。見学は事前に申込を受けてから施設に案内する予約制でした。建物の老朽化のため、現在は閉鎖されており、収蔵物はKDDIミュージアム(東京都多摩市)に移されているようです。
2枚目写真は、玄関から桜の開花時期に小山国際通信センター方向を撮影した写真。このアングルは雑誌「電波受験界」の表紙になったことがあります。噴水の周囲の池は水深が3メートル以上あり、青々とした水(地下水)をたたえていました。水冷式の送信機があったころは真空管の冷却にこの地下水を使用していたと聞いています。
送信所の周囲は桜の木が多数植えられていて満開時に見事な景観となります(写真2、3枚目)。樹齢50年以上の老木が多いため、周囲より満開になる時期が少し遅かったです。
写真4~6枚目は全固体化送信機に置換される前の国際電気製送信機(SK-6型)で使用されていたJRC送信管(直熱型4極管)8F71RAで、使用による特性劣化で交換され、廃棄される分を頂いたものです。7枚目の講演で話をしているときの写真を見ていただくと真空管の大まかなサイズがお分かりいただけると思います。送信機には真空管の端子部を下にしてソケットに実装されており強力なブロワファンで強制空冷されていました。
送信所の資料館(第1局舎)を左方向に通り抜け、送信所第3局舎2階の重い扉を開けると送信機10台(通話用7台、呼出用1台、予備2台)がうなりをあげている…そんな感じでした。各送信機は1年に一度、約半月から1か月くらいの期間で定期整備に入り、担当者が終段部や同調回路の可動部をオーバーホールしてピカピカに磨き上げていました。1995~96年にかけてJRC製の全固体化送信機になってからは、冷却ファンは稼働中にしか回転しなかったので、局舎内がずいぶん静かになっしまって少し寂しかった記憶があります。
VLP(垂直対数周期)アンテナ
東西方向にそれぞれ向けた垂直対数周期アンテナ(ログペリ/8~22MHz)と垂直ダイポール(4MHz)を組み合わせた構成になっています。小山国際通信センターの運用卓から東西方向に輻射方向を切り替えることができます。
送信所からアンテナ敷地の入り口までは同軸ケーブルで給電、敷地入口にバルントランス(バラン)があり、そこからはアンテナまでは平衡4線式での給電となります。
4MHz帯のエレメントは東西方向にそれぞれついていますが、4MHz帯で送信する場合指向性はほぼ無指向性となります。
TCI540(無指向性)アンテナ
4本の支柱に固定された朝顔形のエレメントで対数周期のアンテナを構成していいます。放射パターンは無指向性ですが、利得は周波数によっては10dB近くあったとおもいます。呼び出し周波数(コールチャンネル)の送信に使用していました。
TCI社のホームページに紹介があります。現在でも現行モデルと思われます。
アンテナ敷地は危険な箇所は「高電圧危険」の柵があり、支柱は登れないように地表付近の支柱は防護板が付けてありますが、それ以外は一般の方が犬の散歩で敷地に入られたり、ジョギングをされたりと出入りは自由でした。
写真4枚目は、TCIアンテナの支柱のとところに居た子犬。誰かが捨てて帰ったか野犬の親犬とはぐれた子犬か??、自分は当時は独身寮住まいで連れて帰れず…誰かに拾われていればいいんですが…
受信系統(北浦受信所)
北浦受信所局舎
サーキュラーアレーアンテナ(象の檻)
QSLカード提供 JI1RXB 中村仁 様(撮影は1980年代後半頃)
サーキュラーアレーアンテナは通称「象の檻」とも呼ばれ、JBOで使用していたものは直径が300mあります(JI1RXB中村氏提供QSLカード参照)。
10度ごとに対数周期のアンテナをすり鉢状に配置して構成しています(写真2枚目)。
写真(1枚目)中央が半地下の「ビームフォーミング舎」、ここに位相合成装置があり、無指向性や受信方向の選択を行う装置がああります。小山国際通信センターの運用卓からの遠隔操作で受信方向を選択します。22Mや17/16Mのハイバンドは運用卓のセレクタ(20度刻み)を1つずらすとSメーターの振れがガクンと落ち、ビームの切れ相当なものでした。使用感はVHF帯のアンテナにに近いかも知れません。
写真3枚目中央が「コニカルモノポール」アンテナ、呼び出し周波数を無指向性で受信するときに使用していたと記憶しています。
小山国際通信センターから北浦受信所へは国道125号、354号経由で車で片道2時間ほどを要しました。
北浦受信所へは在職中に行ったのは3~4回ほど…写真は95年1月撮影です。
受信機担当は定期的に出向いていたので、担当が現地で16時頃に仕事を終え、小山に帰着するのが18時ごろ。途中、霞ヶ浦で川エビの塩ゆでを買って帰るので、受信機担当が帰着するのを待ち、そのまま職場に残って川エビを肴に皆でワイワイ飲むのが楽しかった記憶があります。
運用
- 船主などから問い合わせがあった際、FAXで送信していたJBOの利用案内資料。周波数、呼び出し時間帯などが記載されています。
- 無線従事者免許
第1級総合無線通信士や第1級海上無線通信士が通信操作を行っていました。また、送信機関係の周波数偏差測定などの技術操作は第1級陸上無線技術士が従事していました。
構成
- 小山国際通信センターの通信士(テクニカルオペレーター)は船側との通信設定を担当します。
- 陸側のお客様への接続はトラフィックオペレータが行います。
- 日本籍船は国内通話(NTTからの委託業務)のためNTT遠洋船舶台(横浜)のトラフィックオペレータへ接続します(赤矢印)。
- 外国籍船は国際通話となるためKDD東京国際電話センター(新宿)のトラフィックオペレータへ接続します(青矢印)。
- 日本籍船の日本国外への通話は国際通話となるため、KDD小山国際通信センターの通信士がKDD東京国際電話センター(新宿)のトラフィックオペレータへ接続し、外国籍船の日本国内への通話はKDD東京国際電話センター(新宿)のトラフィックオペレータが日本国内へ接続していまいした。
- NTTの銚子無線(JCS)/長崎無線(JOS)とも連携し、無線電報による通話受付や時間外の陸発コール対応などを行っていました。
随時受付(船発コール)
左上のイラストをクリックして開き、順次右方向へ進めることにより船発コールが接続される様子を見ることができます。
随時受付は船発コールのための受付方法ですが、陸発コールを蓄積している状態で船側が呼び出ししてきた場合、船側にそのことを伝え、陸発コールとして接続することもできます。
船側のコールサインは日本籍船舶の場合プリフィックスが2文字、サフィックスが2文字の計4文字です。アマチュア局の様にエリア別の数字はありません。4文字のコールサインを使用するのは無線電話以外に無線電報も取り扱っている船舶局で、無線電報を取り扱わない船舶局の場合は船舶名の前に「電話方式」を付け、「電話方式 ○○水産 第3なんとか丸」がコールサインとなります。
※船名の前に船主名が付くの同一の船名が複数存在する場合です
※電話方式の船舶もJARLの准員番号の様なコールサインは持っているようです
通話料金はNTT遠洋船舶台経由の場合、全国共通で最初の3分間が1050円、追加1分ごとに350円が発生しましたが、インマルサットなど衛星船舶電話に比べるとかなり割安でした。外国籍船舶の場合通話料金は接続する国や地域によって異なり、SDRという単位(郵便局のホームページへのリンク)で国や地域ごとに設定されていました。
定時受付(陸発コール)
左上のイラストをクリックして開き、順次右方向へ進めることにより陸発コールが接続される様子を見ることができます。
定時受付は陸発コールのための方法ですが、同時に船発コールを受付することもできます。
通常は次の定時一括呼び出しのテストスピーチ開始までの時間帯で通話を受け付けますが、翌日9時半の1回目定時一括呼び出しのテストスピーチ開始前までの時間帯に「明朝予約」として船発コールの通話予約を受け付けることもできました。この場合、受付時と通話時で昼夜が逆転するので、受付時に対して明朝に通話を行う時のバンドは同じでは無く、受付時8メガ、通話時17/16メガなどコンディションの変化を考慮して決めないといけないことになります。
船舶局の短波帯無線設備
JKYS 第2白嶺丸(水産庁) 1995年4月
横浜港で一般公開中の水産庁の調査船。
通信室は非公開エリアだったが、KDD社員でJBOの通信士あること伝えて見学を申し出たら、快諾していただき、ここで15:30の定時一括呼び出しを聞いた。
送信機は運用卓の奥に2台あり、業務用冷蔵庫くらいの大きさがある(写真3枚目)。
送信機から延びる平衡給電線がむき出しになっていて天井付近から外へ伸びている。
JHLO 小笠原丸(小笠原海運) 2007年3月
東京港を朝出発して父島到着は翌日昼前。25時間以上の航海となる。
乗船客向けのブリッジ・機関室見学は、出航翌日朝、父島二見港への入港前に実施された。
通信室は区分けされておらず、ブリッジの後方一角に通信機器が配置されている。
送受信機は家庭用の小型冷蔵庫くらい(1枚目写真右隅)。その左側が短波帯送受信機の操作コンソール。
GPSとロランCの受信機が並ぶ。よく見ると…表示されている数字が微妙に違う(写真3枚目)。
技術資料
国立国会図書館の蔵書情報(閲覧にはユーザー登録、本人確認要)
国際通信の研究. Jan 1981 No.107
北浦受信所の新受信施設 / 寺島林太郎/p62~76
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2284303?tocOpened=1
国際通信の研究. July 1982 No.113
短波船舶電話用新海岸局設備 / 寺島林太郎/p641~654
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2284309?tocOpened=1
国際通信の研究. Oct 1985 No.126
短波送信機特性測定の自動化 / 戸田一夫 ; 阪田羊一 ; 七五三掛誼/p640~645
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2284369?tocOpened=1
国際通信の研究. Jan 1985 No.123
〔技術解説〕特集記事 新中央局(小山)建設(その1)-通信局舎および電力設備- / 新中央局建設準備室建築部 ; 機器部 ; 交換部/5~72
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2284319?tocOpened=1
国際通信の研究. July 1987 No.133
小山国際通信センタ-における短波船舶通話用設備 / 高橋美則/p293~303
https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2284376?tocOpened=1
国際通信の研究. Sept 1996 No.156
新JBOシステムの概要 / 今井隆 ; 中川篤 ; 嶋村宏/p61~68
ありがとうございました(関連情報等)
FacebookのJBOページ
https://www.facebook.com/profile.php?id=100064391603269
サービス終了告知 ㈱KDDI
https://www.kddi.com/corporate/news_release/kako/2003/0127/
名崎無線送信所研究サイト(個人サイト)
https://x680.x0.com/nazaki-tx1/WEB/INDEX1.htm
各送信所があったころや現在の写真、JBOと定時一括呼び出しの音声など。
私(右田)も写真を提供しています。定時一括呼び出しの音声はこのサイトをスマホで参照し、講演中に紹介しました。
電通大ミュージアム
https://www.museum.uec.ac.jp/database/valve/bf4/8F71RA.html
(送信管8F71RA諸元)
https://www.museum.uec.ac.jp/database/sf/sf650/s685.html
(96年導入の全固体化送信機)
アンテナの見える風景(個人サイト/受信所跡地の現状など)
http://home.p04.itscom.net/yama/
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GoogleMap(地図引用)
https://www.google.co.jp/maps/
いらすとや(イラスト引用)